皮膚は凄い ~原始の脳?~
久し振りに発売された傳田光洋氏の著書『皮膚感覚と人間のこころ』を読み、4年前に『第三の脳――皮膚から考える命、こころ、世界』を初めて読んだ時のことを思い出しました。
怪我をした場所に当てる光の色で傷の修復速度が違う※1など、皮膚の持っている驚くべき能力を知り、凄く興奮したものです。
もしかしたら、この研究の延長で経絡現象や経絡敏感人間の謎が解明されるかもしれない、とワクワクしたものです。
強烈なインパクトを覚えた『第3の脳』の読破後、色々な視点で勉強を重ねてきたので今回はインパクトが少なかったような気がします。それでも、『皮膚感覚と人間のこころ』には皮膚の驚くべき能力について多くの事が書かれています。
その中の幾つかを引用してみます。
- P82【皮膚の感覚】辛味成分・酸などの化学刺激の受容、温度や圧力などの物理刺激の受容 →従来、感覚は脳で理解されるものと思われていたが、脳に感覚がいかなくても皮膚だけで辛いとか熱いとかを感じていることが分かった!
- P93【皮膚の聴覚】可聴音である5000ヘルツの音はバリア回復に影響を及ぼしませんでしたが、1万~3万Hzの音の照射は、バリア機能の回復速度を促進したのです。 →皮膚は外敵(菌やウイルスなど)から体を守るバリアがあるが、音がバリア修復に関係していることが分かった!お肌の乾燥を音楽で治せるかも?
- P98【皮膚の視覚】明暗を受容しているロドプシンが表皮の中ほどから表面に向かって存在していました。赤や緑の比較的波長の長い光を受容するオプシンは表皮の最深部にずらっと並んでいて(後略) →従来、目に特有の機能と思われていた明暗が、皮膚でも感知できることが分かった!
どうですか?皮膚の能力。凄くないですか? 今まで感覚受容器や神経の機能だと思われていた数々の能力を皮膚が持っていることが分かってきたのです。例えばロドプシンやオプシンというのは眼が持っている光を感知するためのタンパク質です。それを皮膚も持っているということになります。他にも凄い記述は沢山ありますが、全文引用するわけにもいきませんので、数点の追加を後述するだけにとどめておきます。
皮膚への刺激と治癒力の向上
おきらくの鍼灸治療は積聚治療と経絡治療です。
どちらも東洋医学に基づき、皮膚にごく弱い刺激を与える事で、人が本来持っている治癒能力を回復させる治療です。
もちろんどちらの流儀でもはり(鍼、針)を深く刺すことはありますが、基本は非常にソフトな刺激で治療します。
積聚治療の基本は銀のはりによる触れるだけの治療(接触鍼)ですし、経絡治療は先端数ミリ刺すか、接触鍼の治療です。
皮膚への刺激は僅かであっても、ヒトの体は変わるのです。
例えば肩こりや腰痛などは、はりをすると硬かった筋肉が段々と柔らかくなるのが触れられます。皮膚は脳そのものだと、治療を通じて日々感じています。
こんなソフトな皮膚刺激で体が変わるなんて、とても凄い事だと思いませんか?
そういえば、今公開中の映画「ダイアナ」ではりのシーンがありました。故ダイアナ妃は前向きになれるよう、はり治療を受けてそうです。
参考情報
第3の脳-皮膚から考える命、こころ、世界
※1 P40 赤い光をあてるとバリアの回復が早くなる。緑は変化なし。青だとバリアの回復が遅れたのです。
皮膚感覚と人間のこころ
新潮選書刊 2013/3/15 初版第2刷
本文で引用した以外にもまだまだ引用したい部分はありますが、あと少しだけで我慢します。
- P24【親から子への皮膚感覚の影響】新生児の時、親(中略)によって皮膚をきれいにされたり、なめられたりした「愛育ラット」は、成長してから自分の子供に対しても、同様の世話をします。しかし母親から(中略)世話をされなかった「放置ラット」は成長後、自分の子供の世話をしません。
- P61【免疫系の最前線】表皮定着型T細胞 T細胞は全身を循環するものだと長い間信じられてきましたが、最近、皮膚に常在するT細胞の存在が明らかになりました。感染は毛穴を通じて起こることが多いのですが、皮膚のどこかがウイルスの感染を受けると、そのウイルスに対する識別能力、いわば記憶を持ったT細胞が、感染を受けた場所だけでなく、表皮と毛穴の表面に広がり定着することがわかったのです。
- P103【皮膚と電場】さらに金属に触れても、バリア機能が促進されました。(中略)金属表面に酸化皮膜がないこと、簡単に言えば錆びていないことが前提です。そのため錆びない金属である金には常にバリア回復能力があります。
- P110【マッサージの効果】HIV、自閉症、多動性障害、アルツハイマーに効果あり(多数中略)その他、 類似の報告は枚挙に暇がありません。
第二の脳
傳田氏は皮膚を『第三の脳』と呼びましたが、じゃ、第二の脳は何でしょう?
実は腸なんですね。マイケル・D・ガーションが『第二の脳-ガットブレイン』の中で腸のことを 「セカンド・ブレイン」と称しました。
発生学的な脳としては、まず皮膚、次に腸、そしていわゆる脳ができたと思うので、個人的には皮膚が第一の脳、腸が第二の脳、そしていわゆる脳が第三の脳だと思っています。
と言う訳で、腸も脳から独立した神経組織を持っています。その事はまた別の機会に。
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