ゆで卵は生卵の夢を見るか?
鍋物など、温かいものが美味しく感じる季節ですね。
ところで、ヒトが火(熱)を使う事を覚え、食物エネルギーを効率的に消化・吸収出来るようになって以来、熱を通す事で食物は格段に消化しやすくなり、ヒトの繁殖力は高くなったといえます。
食べ物に火を通すとどのような事が起きるでしょうか?
例えば野菜の場合、水溶性の食物繊維であるペクチンが溶けるので柔らかくなります。 お米は、糊化して消化がよくなります。
では、私たち体の主成分であるタンパク質に熱を加えるとどうなるでしょう。卵を思い浮かべてください。熱を加えていくと、段々白く固まっていきます。そして、一度ゆで卵にしてしまうと、もう生卵には戻らないというのが私たちの常識です。
だからインフルエンザなどで、40℃を超える高熱が出る時は、氷で無理にでも体温を下げる必要も出てきます。
熱は場合によって、良いこととと悪いことがおきます。
実は、ここにシャペロンと名付けられた面白いタンパク質があります。タンパク質は、複数のアミノ酸が連結して出来ていますが、アミノ酸が繋がっただけではタンパク質になりません。決まった形に折り畳む必要があるのですが、その時に重要な役目を果たすのがこのシャペロンです。そして、更に興味深いのは、体にストレスが掛かった時に大活躍する事です。
例えばHSP70と呼ばれる代表的なシャペロンは、熱ショックタンパク質(Heat Shock Protein)であり、細胞が高い温度(40℃以上)にさらされると、タンパク質が固まることを防ぎ、変成したタンパク質を元に戻すように働いているのです。要するに、ゆで卵にならないようにするだけでなく、ゆで卵を生卵に戻す働きをします。
HSPには色々な種類があって熱だけでなく、水銀、カドミウム、砒素などの重金属を含む有毒物質、低酸素や活性酸素などの酸化ストレス、グルコース飢餓や虚血などでも誘導されることが分かってきました。
実際に試験管内では、数種類のHSP(HSP104とHSP70)にエネルギー物質であるATPを加える事で、ゆで卵を生卵に戻す実験結果もでました(参考文献参照)。
ちなみに写真の卵は天神屋の塩釜たまごです。昨日の昼食に頂きました。何となく塩味のするゆで卵でした。
まだ鍼灸の観点でシャペロンの研究はされていないと思いますが、これは絶対に関係ありそうだという予感でとてもワクワクしてきます。
イボや手術痕、ケロイドなど、一度変成してしまった細胞はいつまで経っても元通りにはなりません。もし細胞がどんどん新しくなるのなら、こうした異常な皮膚の状態も時間と共に修復されても良さそうな気がしますが、そうはなりません。
ところが、おきゅう(灸)をすると元の綺麗な皮膚に戻ります。
実際僕も鍼灸学校に通い始めた頃、右の手首付近に沢山のイボがありました。
そこに、極楽先生が毎日おきゅう(灸)を続けてくれたのですが、いつのまにかすっかり綺麗になっていました。他にも大きなほくろがとれたり、昔の傷痕が薄くなったりしています。
これがおきゅう(灸)の持っている、体の治癒力を高める力だと思います。
おきゅう(灸)は患部に直接すえるだけでなく、例えば合谷などのつぼにすえるだけでも全身の血流を良くする効果があります。
今まで一度もおきゅう(灸)をしたことない方、だまされたと思って一度試してみませんか?
【参考文献】岩波新書刊 永田和宏著「タンパク質の一生」
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